MONO 語り 2 / Infinityそうして、だらしない眠りが毎日の午後になると襲ってきて不眠が辛かった長い年月のことを、かえって『まし』なことのようにさえ感じるようになってきた。それなのに、どうやらぼくは、安眠しているのではないらしい。ふと気がつくと、彼女の二本の指が、ぼくの眉間に触れられていた。ありがちに眉間に皺を寄せて眠っているらしく、彼女はその縦に並ぶ二本の皺を伸ばしてくれていたのだった。『ヒトって、その表情で印象の善し悪しが決まるからさぁ。眉間の皺、伸ばしてあげてるのよ....』二本の皺が薄くなるまで、彼女の二本の指はゆっくりゆっくり、ぼくの眉間を行き来していた。『ほら!皺が消えたよ。』とても嬉しそうに、彼女の声が優しく響いた。それでも、まだぼくはけだるい眠さから解放されきらず、そればかりか最近、すこしづつわけのわからない痛みが身体中をかけめぐるのを、いぶかしく思っていた。2016.09.24 17:19
MONO 語り 1 / Infinity初めて『おでこ通信』を行ったあとで、少しばかり ぼくの身体に異変が起きた。 ぼくは、もともと不眠症がかっていて、『24時間ネムレナイ症候群』が数日続くことが多かった。そんな日には、頭のなかで決してやむことのない WHITE NOISEがさらに音量をあげてくる。 その上、車を運転中には、お気に入りの篠笛のCDを聴いていないと、どこかで気が狂ってしまうのではないかと思う程、ぼくの頭を占領しきって、砂塵がまうような感覚が常にやってくるのだった。 ところが!彼女と『おでこ通信』の秘技をした翌日あたりから、たいした肉体労働もしていないのに疲労感があり、だるい眠気がまとわりつくようになった。 眠りたくても眠れなかったぼくが、眠ってはいけない時刻に、うつらうつらが襲ってきて、ベッドに身体を投げ出すしかなくなってしまっていた。 それでも、それが『おでこ通信』のせいだとは、まだ知る由も、疑いすらもなかったのだった。 彼女のほうは、といえば.... 異変は何事もなく、ただただ、ぼくの見せたおかしな記号の意味を どうにかして解読できないものかと思案しはじめていた。 2016.09.24 17:11
MONO 語り zero / InfinityMONO がたり のはじまりは...空間の歪みのなかに、それらを封じ込めた時からはじまった。180度の人生転換など、そうそうありはしない筈が それは、まるでトールハンマーが振り下ろされたように ぼくと、彼女の頭上に堕ちて来た。 彼女のいう『おでこ通信』を、初めて行ったときに 彼女は、ぼくのブレインという暗幕に映し出された この世ではみかけない、いくつかの記号らしい形を見いだした。 カミもペンも用意していないという、とんまでお間抜けな試みの始まりは、焦りとともに、未知の領域をかいま見た秘密の儀式のようで、ぼくは興奮を隠しきれなかった。 ぼくのブレインの暗幕は、まるでちぃさな宇宙空間のように遠近感がはっきりしていて、3Dの映画をみているようだと彼女は言ったのだった。2016.09.24 17:03
MONO 語り Infinity真夜中三時半....寝付かれなさに任せて、包丁を手にする。いくつか手つかずに転がしてある紫玉葱のスライスを二個分。それをビネガーひたひたにして、ピクルスの下ごしらえ完了。黒霧島のオンザロックを左手に、亡くなった父が、その昔買ってくれた木製の折り畳みイスに腰掛ければ黒猫の一匹が、間をいれずに膝に飛び乗ってくる。ヒトの呼音葉(ことば)で語りかければ、黒猫はそれに応じて身体の総てで呼音波(ことば)を返してくる。他の猫たちも、わたしのぐるりにそれぞれの位置を構え、わたしと黒猫のやりとりに、聞くとはなしにその耳をたてている。そして、わたしは思い出す。かつて多くの呼音葉(ことば)を綴っていたことを。ひとりのモノに認められたいと切に願い乍ら多くの想い出の影を切り取っていた事を。そして琥珀に閉じ込めた『待っているよ。』の約束事を思い出し乍らそれは、あくまで、自我の溢れ出たる極みに過ぎなかった事を。微動だに出来なかった姿のままにそれは、あの瞬間に生き途絶えてしまっていた事すら気づかずに過ごして来たこの日々にようやく終止符がついたのだと溶けきった氷とともに飲み干した酒が教えてくれた。いや、『待っているよ。』と相手に束縛をかけた自分にようやくその罪の重さを感じ取れ手放しの途期を知ったのだった。2016.08.07 20:08